認知症

認知症の代表的なテスト5選|評価法と注意点も交えて解説

認知症の代表的なテスト5選|評価法と注意点も交えて解説

「最近、物忘れが気になるようになってきた」「会話の内容を思い出せなくなった」こういった症状が気になるようになると、認知症という文字が頭をよぎってしまうものです。

年齢を重ねると認知力が下がって物忘れの症状が増えてきますが、物忘れをするからといってすべての人が認知症であるというわけではありません

物忘れが単なる年齢によるものなのか、それとも認知症なのかについて評価するためには、テストや検査を行う必要があります。

今回は、認知症の代表的なテストを5つ紹介します。ご自身でテストする方法についてもお伝えしますので、ご家族に気になる症状があるときは、ぜひお気軽にテストを利用してみてください。

認知機能テストは2種類

認知機能の代表的なテストは、2つ存在しています。まずは、それぞれのテスト内容について基本的な知識を身につけていきましょう。

神経心理学的検査

神経心理学的検査とは、簡単な質疑応答や作業を行い、一定の基準未満の成績が出ると「認知症の疑いがある」と診断されるテストです。症状の把握や早期発見以外にも、治療内容を考えるときや治療効果の判定などに利用していきます。

なお神経心理学的検査には多くの種類が存在しており、一例として下記のような種類が挙げられます。

【知能】

  • ミニメンタルステート検査(MMSE検査):見当識や計算力、図形の描写力などを評価
  • 長谷川式スケール:認識力や計算力などを評価
  • コース立方体テスト:積み木を使い、視空間認知や知能を評価
  • レーヴン色彩マトリックステスト:カラーの図柄を用い、欠如部分にはまるピースを選ぶ

【記憶】

  • 三宅式記銘力テスト:2つの対になった言葉を覚え、聴覚性記憶を測る
  • ベントン視覚記銘力テスト:イラストや絵を覚えて描く、視覚性記憶を測る
  • ウェクスラー記憶テスト(WMS-R):総合的な記憶評価をする

【前頭葉機能・遂行機能】

  • 前頭葉機能テスト(FAB):前頭葉を評価する6つの項目を問う
  • 時計描画テスト(CDTテスト):時計の絵および指定された時刻に針を配置するイラストの描画を行う
  • MoCA-Jテスト:視空間・遂行機能、命名、記憶などを測る

【その他】

  • うつ性自己評価尺度 (SDS):自己評価式抑うつ尺度で、認知機能の異常によるうつ状態について測る

脳画像検査

脳画像検査では、機器で撮影した脳の画像を見て評価していきます。一口に脳画像検査といっても、下記の2種類に分類できます。

  • 形態画像検査:MRIやCTを行い、脳の萎縮や脳梗塞、脳出血や脳腫瘍など、脳の疾病がないかどうかを評価する。
  • 機能画像検査:SPECT検査やPET検査で脳の血流や代謝を見て、脳の活動について評価する。

なおCTやMRI検査などを行うと、「治る認知症」を発見することができます

検査で硬膜下血腫や水頭症、脳腫瘍などにより認知機能の低下が起きていることが判明したときは、手術などで症状を改善することが可能です。

代表的な認知機能テスト5選

ここからは、認知機能を評価するときに行うテストについてより詳しく解説します。自宅でできるものもあるので、ぜひ利用してみてください。

ミニメンタルステート検査(MMSE検査)

ミニメンタルステート検査(MMSE検査:Mini Mental State Examination)とは、「精神状態短時間検査」と呼ばれているスクリーニングテストです。

世界的にもっとも用いられることの多いテストで、国内でも広く利用されています。テストは11問の評価項目からなり、15分前後で認知症の疑いを評価できます。

評価項目と問題の一例は、下記のとおりです。

  • 時間の見当識:「今日は何日ですか」「今日は何曜日ですか」
  • 場所の見当識:「ここはどこですか」「ここは何階ですか」
  • 即時想起:「私の言葉を繰り返してみてください」「今の言葉を覚えておいてください」
  • 注意力と計算能力:「100から7を繰り返し引いてください」
  • 遅延再生:「さっき覚えてもらった言葉はなんでしたか」
  • 呼称:「これは何という道具ですか」
  • 読字・復唱:「私が言う文章を繰り返してください」
  • 言語理解:「この紙を左手で持ってください」「この紙を半分に折ってください」
  • 文章理解:「この文章のとおりに行動してください」
  • 文章構成:「昨日の行動を文章にしてみてください」
  • 図形的能力:「この図形をそのまま書き写してみてください」

上記の問題に答え、26点に満たない場合は軽度認知症の疑いがあり、23点以下で認知症の疑いがあるとされています。結果が基準値を下回るときは専門家に相談し、さらに詳しい検査を行ってください。

長谷川式スケール

長谷川式スケールは、精神科医の長谷川和夫氏によって開発された認知症テストです。ミニメンタルステート検査と同様、短時間で効率的に評価できるテストであるため、国内で広く利用されています。

このテストで出題される問題は、下記のとおりです。

  • 年齢はいくつですか
  • 今日は何年何月の何日で、何曜日ですか
  • 私たちが今いる場所はどこですか
  • これから言う言葉を覚えておいてください(具体例:桜・ねこ・電車)
  • 100から7を引いてください。その引いた数字からさらに7を引いてください。(作業記憶の検査です)
  • これから言う数字を逆から言ってください(作業記憶の検査です)
  • 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください(遅延再生課題)
  • これから5つの品物を見せて隠すので、何があったか言ってください
  • 野菜の名前をたくさん教えて下さい

評価項目は9つで、30点中20点に満たないと認知症の疑いがあります

認知症予防協会の認知症自己診断テスト

一般社団法人認知症予防協会が提供している「認知症自己診断テスト」を使えば、ご自身でスクリーニングテストを行うことが可能です。

全10問で構成される問題に回答するだけで、認知症の疑いがあるかどうかを評価できます。問題の内容は長谷川式スケールとほとんど変わりませんが、イラストを使った問題が多めに用意されています。

テストを終えると認知症予防協会のホームページリンクが出るので、結果に不安を覚えたときは情報を収集しておくといいかもしれません。

テストは認知症 自己診断テストから受けられるので、興味がある人はぜひ実施してみてください。

アルツハイマー病アセスメントスケール認知機能低下位尺度(ADAS-cog)

アルツハイマー病評価スケール(アルツハイマー病アセスメントスケール認知機能低下位尺度(ADAS-cog))は、認知症と診断されたあとに病状を詳しく知るために行うテストです。11項目の問題により、見当識障害や記憶障害などをメインに評価していきます。

テストには1時間前後の時間がかかるため、すべての人が受ける必要はありません。すでに認知症と断定された人、またはその疑いが高い人に対し、進行度合いを評価するために行われます。

東京都福祉保健局の認知症チェックリスト

東京都福祉保健局が提供しているチェックリストを利用することでも、認知症の評価は行なえます。

患者がテストするのは当然のこと、家族が代わりにテストすることも可能です。10問の簡単な質疑応答だけで、認知症の可能性を評価できます。

ただし、身体機能が下がっているときは、得点が低くなる恐れがある点に注意しましょう。医学的診断ではないため、心配な人は必ず専門家にご相談ください。

» 東京都福祉保健局の認知症チェックリスト

認知機能の低下はアプリでもテスト可能

認知機能についてテストしたいときは、アプリを利用することも可能です。ここでは、おすすめのアプリを2つ紹介します。

CADi2

CADi2は、認知症早期発見のために開発されたテストアプリです。10個の項目で構成されており、10点満点で認知症の可能性が評価されます。

このアプリで行われるテストの内容は、下記のとおりです。

  • 即時再認
  • エピソード記憶
  • 逆唱
  • 見当識(月)
  • 見当識(曜日)
  • 計算
  • 直方体回転
  • 順列作成A
  • 順列作成B
  • 遅延再認

内容の妥当性については島根大学医学部付属病院で臨床研究が行われており、自治体の住民検診などでも利用されている信頼性の高いアプリです。

テストの内容をアプリに記録できるため、定期的にテストを行って結果を比較することで、早期発見に役立ってくれます。

» CADi2

Moffワスレナグサ

Moffワスレナグサは、長谷川式スケールを用いたテストができるアプリです。病院や介護施設だけではなく、自宅でも簡単にチェックできます。

出題者と受験者の2者によってテストを行う形式になっており、出題者はアプリを見ながら受験者に問いかけて評価を進めます。

アプリ画面上で動画を見せたり自動で得点集計を行ったりしながらテストを行うため、知識がなくても簡単に使いこなせるでしょう。

» Moffワスレナグサ

認知機能の低下は医療機関で相談することが重要

ここまで紹介してきた認知機能テストには、ご自身で行えるテストもいくつか含まれていました。テストを利用することで認知機能低下は早期発見できますが、テストの結果だけで認知症について自己判断することは非常に危険です。

テストの結果が悪かった場合は、すぐに専門家の診察を受けるようにしましょう。この章では、認知機能低下を医療機関に相談すべき理由について解説します。

認知症テストの点数が悪くても認知症とは限らない

認知症テストの点数が基準に満たなくて「認知症の疑いあり」といった結果が出ると、慌ててしまう人は多いでしょう。しかし、こういったテストの結果は受験者が必ず認知症であることを示すものではないため、この時点で断定してしまうことは避けてください。

高齢になると、脳に異常がなくても認知機能や記憶力が下がることは十分に考えられます。また身体機能や聴力の問題、その日の体調などによってテストの結果が悪くなることもあり得ます。

したがってテストの結果は、あくまで目安や指標のひとつであると理解しておくことが大切なのです。ご家族の日常的なケアやコミュニケーションの一環としてテストを行い、違和感を覚えたら必ず病院で受診して、正確な結果を出してもらいましょう。

認知症を早期に発見することでリスクを抑えられる

「もしかしたら認知症かな?」と思った時点で早めに専門家に相談することは、認知症の早期発見につながります

認知症は、早期発見・治療を行うことで進行リスクを低減させ、完治させたり症状を軽減させたりすることが可能です。また、早期に正確な診断を下すことで、適切な介護のサービスの検討ができるようになるでしょう。

このように、早期発見ができると症状の進行を防げるだけではなく、患者に明確な判断力があるうちに話し合い、これからの生活について考えられるようになります。

医療機関での認知症検査の流れ

ここからは、病院で検査を行う流れを4ステップで見ていきましょう。

①:問診

初めに、医師が患者に気になる症状や病歴などを尋ねる問診が行われます。

問診からは、認知能力や精神状態などを探ることが可能です。したがって、認知症の検査においては、患者とのコミュニケーションが非常に大切な判断材料のひとつとなります。

また患者だけではなく、家族などにも話を聞いて正確に症状を把握していきます。問診の際は服用中の薬についても聞かれるので、正確に伝えられるように準備しておきましょう

②:身体検査

次に身体検査を行って、脳の異常や認知症を引き起こす疾病がないか探っていきます。ここで行われる検査としては、下記のようなものが挙げられます。

  • 尿検査
  • 血液検査
  • 内分泌検査(血中ホルモン)
  • 心電図検査
  • 胸部X線写真

③:画像検査

画像検査では、脳の形を調べることで脳の異常や機能について診察していきます。画像検査は2種類に分類可能なため、ここではそれぞれの内容について簡単に説明しておきます。

「SPECT検査」と「PET検査」で脳の働きを確認

脳の働きを確認するためには、「SPECT検査」もしくは「PET検査」を行います。

「SPECT検査」は、少量の放射性物質を含んだ薬を患者に飲んでもらうことで、脳の血流や代謝などを評価する検査です。脳の血流が少なく認知症の恐れがあるときは、その原因となる疾患の特定まで行えます。

「PET検査」は、体内に放射性薬剤を投入して、放出される放射線をカメラで撮影する検査です。脳の代謝状況を見ることで、軽度の認知症や認知障害などが発見できます。

CTやMRI検査で脳梗塞などの脳の病変を確認

脳の形を調べるときは、CTやMRIを用いて検査します。CTやMRI検査で脳の萎縮が発見されたときは、認知症の恐れがあると診断されます。

CT検査は、頭部にX線を照射して通過したX線の量を測定する検査です。このデータを画像化することで、脳の形や様子を見られるようになります。対してMRI検査は、磁気を体内の水素原子に共鳴させ、画像データ化する検査方法です。

④:神経心理学的検査

神経心理学的検査では、さまざまなテストを利用して認知機能や知的機能、記憶力や遂行機能などについて評価します。

詳しい診断を下すためには、臨床心理士とマンツーマンとなり、1時間程度のテストを実行することになるます。

テスト時間が長くなるため、患者が苦痛に感じやすい点に注意しましょう。患者を傷つけるためではなく、健康でいてもらうためのテストであることをわかってもらえるよう、しっかりと説明することが重要です。

医療機関で認知症検査をする前に理解しておくべきこと

最後に、病院で認知症検査をする前に理解しておきたいこと、準備しておきたいことについて紹介します。これから受診を検討しているというご家族は、ぜひ確認しておいてくださいね。

日頃の生活での変化・気になるポイントをメモしておく

正確に診断してもらうためにも、身近な人が「日常生活で感じた変化」や「気になったこと」をメモする習慣をつけてください。

  • どれほど前からどのような症状があるのか
  • 症状が出るようになったキッカケはあるのか
  • 症状が悪化しているのかどうか
  • これまでの病歴や治療中の疾患
  • 服用中の薬やサプリメント
  • そのほかの困りごとや心配ごと

上記のような情報をまとめられていると、よりスムーズで正確な診察が可能となります。

本人に拒否されてしまった場合の対処法

認知症の診断は、ご家族だけではなく患者に大きなショックを与えてしまいます。したがって恐怖や不安から、受診やテストを拒否されてしまうケースも珍しくはありません

もしも患者に受診を拒否されたときは、下記のような対処法をお試しください。

  • 健康な生活のために欠かせないテストだということを理解してもらう
  • 付き添いや持病の診察だと説明し、ついでに受けてほしいと伝える
  • 健康診断の一環だと説明する
  • 患者が信頼する人やかかりつけ医に診察の重要性を説明してもらう
  • 訪問診療を利用する
  • 福祉支援機関に協力をお願いする

ご自身だけでどうにかしようとせず、周囲の協力を得ながら、納得のうえテストを受けてもらえるように説得していきましょう。

万が一認知症と診断されてしまった場合を想定しておく

ご家族や患者にとってもっとも辛いのは、認知症であると診断されたときです。診断されたあとは精神的なダメージが非常に大きく、今後についての話し合いができなくなってしまうことも考えられます。

そのため、あらかじめ診断が出たときのことを想定し、どのように対処するのかについて決めておくことが大切です。

  • 誰が介護するのか
  • 介護サービスを利用するのかしないのか
  • お金の工面はどうするか
  • 患者に告知するのか
  • セカンドオピニオンを受けるのか

以上のようなことを話し合って決めておくと、診断後の手続きや準備がスムーズに進められます。

医療費用や介護費用のために保険への加入を検討する

万が一のときに医療費用や介護費用に困らないように、認知症の症状が出る前に保険に加入することもご検討ください。

とくに「認知症保険」は、認知症になってから加入してもお金が下りません。必ず、認知症になる前・疑いがある時点で入っておくことが重要です。

そもそも、認知症の診断が出てからだと加入できる保険も限られてしまいます。保険への加入は、年齢が若く健康なうちにしておくことをおすすめします。

認知症の進行を遅らせるなら

もしも認知症だと診断されたときは、進行を遅らせるために早期治療を開始することが重要です。とはいえ、認知機能が下がった患者様と一緒に通院することは、ご家族にとって負担の大きいことですよね。

患者様とご家族の負担を少しでも減らすためには、在宅医療を利用しながら負担の少ない治療を取り入れることが有効です。進行を遅らせるための在宅医療をご検討の際は、ぜひ梅本ホームクリニックまでご相談ください。

また梅本ホームクリニックは、電話による相談を受け付けております。「まずは認知症について知りたい」「介護に困っている」という人は、お気軽に専門家に相談できる梅本ホームクリニックにご相談ください。

梅本ホームクリニックの在宅医療についてはこちら

診療内容について詳しくは下記のページをご参照ください。